書評

【書評】堅田利明・菊池良和『吃音のある子どもと家族の支援』

今回は、堅田利明さん菊池良和さんの共著である『吃音のある子どもと家族の支援』の感想を書いていきます。本書は、吃音の子を持つ親や、吃音支援・臨床に携わる教員、医師、言語聴覚士等の専門家に特におすすめです。

基本情報

基本情報(価格・ページ数など)

タイトル:『保護者の声に寄り添い、学ぶ 吃音のある子どもと家族の支援 -暮らしから社会へつなげるために-』
編著:堅田利明(関西外国語大学短期大学部准教授・元言語聴覚士)
   菊池良和(九州大学病院 耳鼻咽喉・頭頚部外科 助教 医師)
出版社:学苑社
価格:本体1700円+税
ページ数:178p
ISBN:978-4-7614-0817-6

尾木直樹(尾木ママ)さんの帯の内容

本書は、科学的な吃音の基礎知識、陥りがちなNG対応例や、本人の意識の持ち方、周囲への理解・啓発の働きかけ方を、当事者や家族へ徹底した「共感」と「傾聴」を軸に、丁寧に解説しています。吃音の研究と支援に情熱を注ぐ専門家2氏による好著を、全ての人に強くおすすめします!

引用元:『吃音のある子どもと家族の支援』本の帯

良かったところ・おすすめポイント

「傾聴」と「共感」を徹底した質の高いQ&A

対人支援を行う人にとってだけでなく、人間関係・コミュニケーションにおいて大切なのが「傾聴」「共感」だと私は考えています。尾木直樹さんの推薦文にもあったように、この本はQ(質問・疑問)に対して、徹底的な傾聴と共感の姿勢でなるべく誤解を生まないような言葉選びで丁寧にA(回答)されています。とても具体的で、再現性が高いため、吃音に関わる全ての人にとって有益な内容になるのではないかと思いました。だからといって、ここに書かれていることをただ真似たらいいというわけではありません。先ほども述べたように、重要なのは「傾聴」と「共感」です。真似るだけでは本質的な傾聴と共感にはなりません。Q7の「どもってもいい」という項目で、まさにそのようなことが書かれていました。とある方の公演に感銘を受けて、すぐに息子に対し「どもってもいいんだよ」と言ってしまった方のことが書かれています。単なるテクニック、耳障りの良い言葉を使うだけではいけない、ということがひしひしと伝わってくる素晴らしい内容でした。

極端な思考・判断に陥らないような配慮

「吃音について触れてはいけない(吃音を意識させてはいけない)」
「吃音のある人なら(他の)吃音のある人の気持ちを分かってあげられる」
「吃音(障害)は個性」

これらは吃音界隈でよく聞かれる言葉です。
一見、理にかなってるように思えたり、ポジティブで耳障りの良い言葉に思えてしまったりします。しかしながら、逆にこのような対応や言葉がけが吃音者を傷つける原因になることも多々あります。正しい部分もあるし、間違っている部分もある…だからこそ極端な思考や判断をせず、「傾聴」と「共感」を大事に慎重に対話することの必要性を本書では説いてくださっています。
最後に、特にいいなと思った箇所をここでは一つだけ紹介させていただきます。

(…)では、吃音のある人なら吃音のある人の気持ちを分かってあげられるのでしょうか。もちろんわかる部分はあるでしょう。しかし、それはすべてではありません。人が違えばその人にとっての吃音のありようもまた違うのです。その人が作り上げていく人生が違うからです。(…)

引用元『吃音のある子どもと家族の支援』Q7

本文ではもっともっと丁寧に書かれています。ぜひ本書を読んで、丁寧なものの見方を身につけていただけることを願っています。

「吃音は親の育て方のせいではない」と伝えることは正しいのか考える

本書では「親御さんは悪くない」ということを強く主張されています。実際に、親の育て方が吃音に影響するという根拠は今のところ出ていません。
自分も親の育て方と吃音には何の関係もないという点においては賛成していて、それを伝えることで吃音の子を持つ親に少しでも安心してほしい、という気持ちはあります。以前紹介させていただいた、小乃おのさんのコミックエッセイ『きつおんガール』でも、幼稚園の先生に「親の育て方が原因ですよ」と言われ、それがトラウマになったという話がありました。科学的根拠がないという点でもそうですが、「親の育て方が原因」と言い切ってしまうのは”寄り添う”という点から考えてもまずいと思います。このように親を責める様な発言をしてしまったら、親が子どもと向き合う気力も削がれるでしょうし、保護者と支援者との連携も難しくなるでしょう。なので、少なくとも「親の育て方が原因」と言ってしまうのは良くない、という認識で私はいます。
しかしながら、個人的には安易に「親の育て方のせいで吃音になったわけじゃないですよ。だから安心してください」と言ってしまうのもどうなのかな、と考えています。実際に吃音者である私は、親がこのように言われたことで辛い思いをした経験があります。親は「自分のせいじゃないんだ」と安心したところまでは良かったのですが、吃音にまつわる問題を全て吃音者である私に責任を押し付けてしまうようになりました(「あなたには努力が足りない」「それは自己責任」と言ったように)。また、子どもに対する関わり方も一層雑になった感じもしました。「親の育て方が悪くない」ということ言葉が「自分(親)の育て方は間違っていなかった。正しかった」と極端な変換がなされてしまったのです。これは少々特殊な例なのかもしれませんが、安易に「吃音は親の育て方が原因じゃない」と言ってしまうことは、このような弊害を生む可能性もあります。その可能性を踏まえた上で、支援者には丁寧に親と言葉を交わし、関わってほしいなと個人的に思っています。私の親がこんな極端な思考に陥ってしまったのは、当時、吃音に関する正しい知識がなかったという点も大きいでしょう。親としての心の余裕もなかったのかもしれません。そういう部分を支援者はしっかりとサポートをし、「吃音は親の育て方が原因じゃないけど、こうやって子どもと関わっていった方がいいかもしれない」と優しく提案してもらえたらと思います。
子どもが吃音であろうとなかろうと、親は子どもと丁寧に関わり、向き合っていく必要がある、と私は考えています。簡単にできることではないですが、その軸はブラさずに持っていてほしいと思います。

まとめ

本書は、これでもかと言うくらいに誤解が生まれないように丁寧に書かれています。吃音に限らず、教育、支援、子育て全般においてもとても為になる本だと思います。とても優しい気持ちになり、人と向き合っていく気力が湧いてくる素敵な本でした。
最後に本書に載っていた小学5年生の体験談から一部引用して締めくくります。

きつ音をみんなに知ってもらって、きつ音の人が安心してくらせる世の中になるとうれしいです。

引用元:『吃音のある子どもと家族の支援』体験談1より

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!!

ABOUT ME
りゅう
教育学部卒。 Xジェンダー/アセクシュアル/吃音症/強迫性障害 人と人が繋がり、悩みを気軽に話し合えるような場の提供がしたい。 SOGI、障害関連のことをよく考えています。 本を読む人。書評やコラムもぼちぼち書いています。