書評

【書評】岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』

2013年12月に発売され、超話題になった本、岸見一郎さん古賀史健さんが著した『嫌われる勇気』。このタイトルを知らない方はいないのでは?というくらい有名になりましたね。今でも売れ行き好調のロングヒットベストセラーです。

『嫌われる勇気』という強烈なタイトルが目を引きます。これは「アドラー心理学」について書かれている本で、心理学の中でも認知度が低かったにも関わらず、今では心理学を専門としていない人でも知らない人はいないくらい有名になりました。

日本は原因論で考えがちな風潮がありますが、アドラー心理学は対極にあるといってもいいくらいとても斬新で切り口で対人関係や承認欲求など、身近な問題について切り込んでいきます。最初は抵抗感を覚えるものの、読んでいくうちにアドラーの教えに妙に納得させられます。これが本書が話題になった理由でしょう。

自分が人間関係で悩んでいたとき、Twitterのフォロワーさんにおすすめしてもらった本で、個人的にとても思い入れがあります。アドラーの思想は今までの自分にはなかったものがたくさん詰まっていて、その時の悩みを違った視点からも捉えられるようになり、少し心が軽くなったことを覚えています。

今回はそんな『嫌われる勇気』、そしてアドラー心理学の魅力をお伝えしていきます!!

こんな人におすすめ

✔ 対人関係に悩んでいる。
✔ 自分がこうなったのはあれが原因だ、と原因論で考えてしまう。
✔ アドラー心理学に興味がある。
✔ 強く生きていくための勇気が欲しい。
✔ 悩みから解放されて幸せになりたい。

本書の基本情報

基本情報

タイトル:『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』
著者:岸見一郎・古賀史健
出版社:ダイヤモンド社
価格:1,500円+税
ページ数:294p
ISBN:978-4-478-02581-9

紹介文

フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称され、世界的名著『人を動かす』の著者・D.カーネギーなど自己啓発のメンターたちに多大な影響を与えたアルフレッド・アドラーの思想を1冊に凝縮!!
悩みを消し去り、幸福に生きるための具体的な「処方箋」が、この本にはすべて書かれている。

引用元:『嫌われる勇気』p.

おすすめポイント

対話形式で読みやすい。

アドラー心理学の本の中でも、この本が爆発的に売れたのは、全て対話形式にあったからではないかと思っています。

嫌われる勇気では、悩める一人の青年と、アドラー心理学を熟知した哲人の二人の会話がひたすら続きます。
会話の中で青年の悩みや問いに答えていくという形式なので、物語風に楽しめるのはもちろん、学術書のような難しい言葉もほとんど使われず非常に読みやすくなっています。
また、哲人の発言に疑問を持った時は青年がそれをぶつけてくれるので、徐々に理解が深められるようにもなっていて、かなり工夫されているなと感じました。

  • 対話形式で物語風に読める。
  • 難しい言葉が使われていない。
  • 青年の悩みや問いが読者にとって身近である。
  • アドラー心理学を徐々に深められるような工夫がなされている。

対話形式にすることで以上の4点が達成され、「心理学」にもかかわらず、一般の方にもとっつきやすいようになっているのがこの本の魅力です。

原因論ではなく、目的論で考えることについて。

われわれは原因論の住人であり続けるかぎり、一歩も前に進めません。

引用元:『嫌われる勇気』p.28

嫌われる勇気では、冒頭で原因論と目的論について語られます。
基本的にアドラー心理学は「目的論」で考えます。

原因論とは、「今の私が○○なのは、(過去の)△△が原因だ」と考えること。
それに対して、目的論は「私は××である(この目的を達成する)ために、今○○の状態である」、と考えることです。

『嫌われる勇気』ではこの原因論と目的論について「引きこもり」を例に出して語っています。

「学校でいじめられているから、引きこもっている」というように今自分が引きこもっている原因は「いじめ」にある考えるのが原因論。
「引きこもるために、自ら不安な感情を引き出している」と「引きこもること」を目的として、今の自分を作り出していると考えるのが目的論。

最初、この部分を読んだ時に強い抵抗感を覚えました。
引きこもりは「周囲の環境」が原因で、引きこもりたくて引きこもっているわけじゃないと信じていたからです。

目的論は環境や過去の経験のせいにすることなく、今の自分を作り出しているのは自分がそれを選択したからだと考えるのです。これは、自分にとって非常に厳しい見方なので受け入れがたい人が多いと思います。青年もアドラー心理学の目的論に強く抵抗していました。

ただ、自分の人生を振り返ってみたときに、確かに「学校に行きたくない」という強い思いが働いて、熱を出したり、腹痛を起こしたりしていたなと、思い当たる節が出てきました。「病は気から」とはよく言ったものです。健康体であっても、自分はしんどいんだ、不安でいっぱいだと思い込むと、本当に体がそういう状態になります。目的論もあながち間違っていないのかもしれません。

自分の行動や考え方で今の状況は変えられる。
これがアドラーの教えです。だから、人間には「勇気」が必要なのだと言っているのでしょう。

ただ、個人的にはここまで目的論に縛られる必要はないと思っています。
人生の中で自分で選び取っているものというのは大部分を占めるのかもしれませんが、なかには周りからの影響を受けて「選び取らされている」という場面もやはりあると思うのです。

法律、慣習、常識……様々なことが私たちの選択に影響を与えていることを完全に無視するというのは難しいですし、目的論に囚われて自分を責めすぎるのは良くないのではないかと思います。

原因論と目的論……どちらの視点からも考えられるようになるのが理想的かなと思います。

『課題の分離』について。

アドラー心理学の理論で有名なのが「課題の分離」だと思います。本書でも「課題の分離」については再三登場してきます。

課題の分離とは、自分のタスクと他者のタスクをしっかりと分けておく、ということです。言い換えると、他者の課題を自分の課題にしてしまわない、ということになります。例えば、「子どもが学校の宿題をしない」という問題が起きるとします。大抵の親は宿題をしない子どもに「ちゃんと宿題しなさいよ」と声をかけたり叱ったりすると思います。この状態は”課題の分離”ができていません。

学校の宿題というのは、親の課題ではなく、子ども自身の課題になります。なのに、子どもの課題に親が口出しをしてしまうと、「親に甘える」もしくは「反発心が生まれて頑なに宿題をしなくなる」といったような問題が起こりやすくなり、子どもの自立を阻害します。また、いくら言っても宿題をしない子どもに対して、親はイライラし始めます。お互いにイライラが募ってしまうと、親子関係が悪くなるという最悪の状況になりかねません。

課題の分離を行い、「宿題はあなたの課題だから、自分で考えてやりなさい」と子ども自身に自分の行動に責任を持たせていくことで、子どもは自立心を育てていくのです。かといって、これは子どもの課題だからといって、全く無視するのもいけません。それは育児放棄に繋がってしまいます。

大切なのは子どもの選択を尊重しつつ、子どもが困っているときにしっかりと支えてあげる準備をしておくことが大事になります。たまに、「放っておいても子どもは勝手に育つ」みたいなことを主張している人がいますが、そんなことはありません。子どもが失敗しても、それを温かく受け入れ、次に進むための勇気を与えていくことが親の役割になるのです。

アドラー心理学において課題の分離はとても大切な概念になります。「相手のため」と良かれと思って相手の課題を引き受けてしまうこともありますが、それが相手の成長を阻害してしまっていることもあるので、相手の課題とどうかかわっていくか、ということはしっかりと考えていくことが大事だと思います。課題の分離は誤った解釈をされやすい部分でもあると思うので、哲人の言っていることをしっかりと解釈するように努めてください。後でも紹介しますが、『嫌われる勇気』の続編『幸せになる勇気』も併せて読むことを私はおすすめしています。

『共同体感覚』とは何か

アドラー心理学には「共同体感覚」という概念があり、これがアドラー心理学の最終的な到達点とされています。

共同体感覚は、家族・地域・職場などの中で「自分はその一員なんだ!」という感覚を持っている状態のことをいいます。

共同体感覚を備えた人の特徴として以下の5つが挙げられています。

共同体感覚を備えた人の特徴

➀仲間が興味をもっていることに関心をもっている。

②自分は所属グループの一員だという感覚をもっている。

③積極的に仲間の役に立とうとする。

④関わる人たちとお互いに尊敬・信頼しあっている。

⑤すすんで協力しようとする。

アドラー心理学でも、人間は人と関わり合うことでしか生きていけないということは強く主張していて、その究極の状態が「共同体感覚」なのだと思います。

自立していて自己受容ができ、他者を尊重し適切な距離感で協力することができる状態。たしかにとても理想的ですよね。共同体感覚を得ることは非常に難しいことだと思いますが、アドラー心理学の理論をちゃんとおさえて実践することができれば、もしかすると可能になるかもしれません。

共同体感覚を得られるように、ここで紹介した目的論や課題の分離などを取り入れて頑張ってみましょう。

まとめ

アドラー心理学は「誤解されやすい」心理学だとも言われています。『嫌われる勇気』の続編として『幸せになる勇気』が出ているのですが、そこでは哲人から助言を受けた青年が様々な誤解をしていることが対話の中で判明します。

嫌われる勇気は丁寧に書かれていますが、それでもやはり誤解が生まれるかなと読んでいて思いました。なので、私は『幸せになる勇気』も併せて読むことをおすすめしています。

一度ではなかなか理解できないかもしれませんが、生きていくうえで大切な考えがたくさん出てきますので、何度も繰り返し読んで、そして勇気をもって日々の生活で生かしていってほしいと思います。

ABOUT ME
りゅう
教育学部卒。 Xジェンダー/アセクシュアル/吃音症/強迫性障害 人と人が繋がり、悩みを気軽に話し合えるような場の提供がしたい。 SOGI、障害関連のことをよく考えています。 本を読む人。書評やコラムもぼちぼち書いています。